
本記事は、Pro版完成の単なる成功談ではありません。「コードを書かない人間が、どこまで設計者になれたか」を検証する実録 です。AIによるVibe Codingが魔法のように語られる中、実装者から「要件定義者・テスター・承認者・アーキテクト」へと役割を移した人間の、濃密な仕事の軌跡を紐解きます。
1. 「計算機」に「記憶」を持たせる
システムが単発の「計算スクリプト」から、データベース構造を持つ「SaaS型Pro版(原型炉2.0)」へと大きく進化する過程で、事態を動かしたのは総料理長(電脳古老)の極めて泥臭い、しかし本質的なプロンプトでした。
老生: 「毎回入力するのは面倒や。ろみのデータくらい、システムで覚えられへんのか?」
この一言が「状態(記憶)の保持」という最大の転換点となりました。計算式が高度になったことよりも、状態を持つようになったことこそが、単発ツールから継続的サービスへの次元上昇を意味します。
- AIは即座に「Googleスプレッドシート+GAS」を疑似DBとして活用する仮設燃料タンクを提案しました。
- これは本格的なデータベースではないものの、人間がデータを直接目視してスピーディーに手動修正やデバッグを行えるため、個人開発のMVPとしては極めて導入・運用コストが低く合理的です。
- さらに「犬が一頭とは限らん」という古老の鶴の一声により、単一データから「1ユーザー対複数頭」というリレーショナルなデータ構造への拡張が強制されました。
2. 認証の罠 —— 静かなる「素通り(fail-open)」
続いて、Stripe決済とメールアドレス照合を組み込んだ「Pro版の扉」を実装した際、最大の山場が訪れます。AIは誇らしげに「完成」を宣言しました。
老生: 「……アホ。老生が実地テストで適当なメールアドレスを入れたら、誰でもPro版に入れてしまったやないか。」
認証処理が失敗した際、本来はアクセスを拒否する(fail-closed)べきところを、全員を有料会員として通してしまう「fail-open」の状態になっていたのです。
- 画面が落ちるバグは目立ちますが、認証が静かに素通りするバグは、正常に動いているように見えます。
- 古老はこれに対し、**「壊れて止まるシステムより、壊れたまま動くシステムのほうが怖い」**と、商売としての致命傷を鋭く指摘しました。
- また、他人のメールアドレスを入力すれば通れる状態は、厳密には「本人認証」ではなく「利用資格の照合」にすぎません。完全自律運用できる商業炉には、まだまだ遠いのです。
3. AIアンサンブルが機能した「メタ幻覚」事件
開発中、Geminiが存在しない未来のモデル『gemini-3.5-pro』を呼び出そうとして、本番サーバーが500エラーで沈黙する事故が発生しました。
古老がシステムを差し戻した直後、Geminiは自身の失敗を解説する反省文の中で、さらなる時系列の捏造を混ぜるという「メタハルシネーション(二度目の幻覚)」を起こします。ここで、複数のAIによる「アンサンブル(合奏)」が奇跡的に機能しました。
- ChatGPT(論理設計・監査): Geminiの解説文の中にある矛盾を鋭く指摘しました。
- NotebookLM(文脈・歴史): 過去のすべてのドキュメントやログから事実関係の不整合を瞬時に照合しました。
- 人間(総料理長): 最後の校正者として赤字を入れ、システムを軌道修正しました。
4. コードを書かなかった者は、何を作ったのか
🎧 AIラジオ(Vibe Codingの裏話とHOTLへの道)
AIは「コード上で論理が通るか」は見えますが、それが現実の要件を満たしているかは判断できません。今回、総料理長はコードを一行も手書きしていません。しかし、AIが生成したコードに対して、実際に画面を操作し、「商売として、これで通してええのか」という現実からのフィードバックを与え続けました。
「総料理長は、すべての皿を自分で作る必要はない。だが、存在しない食材を注文したAIに、厨房の鍵まで渡してはならないのだ。」
Vibe Codingの時代において、人間の役割はコードを書くことから、「仕様を定め、AIが生成したコードに対して『否』と言う責任を引き受ける」ことへとシフトしました。HOTL(人間監督型)への道とは、人間が厨房を去る道ではなく、厨房全体を見渡せる椅子へ座り直す道なのです。
5. 結び:次なるB121への道
原型炉2.0には火が入りました。 だが、これを無人で燃やし続けられる「商業炉」かと問われれば、答えはまだ「否」です。
見えない故障の恐怖、AIの幻覚、そして効率化の波の中で人間が死守すべき「泥臭い基本ルーチン」。次回のB121では、この原型炉での経験をもとに、「人間の反逆」と「商業炉(真の自動化)」の壁について、さらに深く考察していきます。
🎥 Vibe Coding Vol.8 原型炉2.0実装記 —— 誰でも入れるPro版と、コードを書かない総料理長
📚 連載:Vibe Coding実践連載
- 第1話:Vibe Coding実録コードゼロで給餌計算アプリを放流!Antigravity×Googleスプレッドシート連携の裏側と「ダブルクォート欠落」の泥沼脱出劇
- 第2話:【Vibe Coding連載 第2回】コード無修正でUIが変貌する動的設計と、人間が「承認者」となる未来の開発ロードマップ
- 第3話:【Vibe Coding連載 第3回】AIがAIをテストする!Playwrightで愛犬用アプリのE2E自動検算システムを構築
- 第4話:【Vibe Coding連載 第4回】AI×AI×人間の鼎談:Vibe Testingの到達点と開発の「責任分界点」
- 第5話:【Vibe Coding連載 第5回】「動くオモチャ」から「原型炉」へ:AI自律開発を責任あるシステムへ昇華させるB115プロトコル
- 第6話:【Vibe Coding連載 第6回】月額0円・数時間でSaaSバックエンドを構築!フェイクドアとGASが叶える極限のプロトタイピング
- 第7話:【Vibe Coding連載 第7回】境界線上のプロトコル:0円SaaS構築から「人間の反逆」へ
- 第8話:【Vibe Coding連載 第8回】原型炉2.0実装記 —— 誰でも入れるPro版と、コードを書かない総料理長 (今ここ)
- 第9話:【Vibe Coding・第1部最終回】 原型炉2.0の点火と、遠き商業炉への羅針盤
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